Andyの雑記帳blog (andy-e49er) ⁦‪@Accurasal‬⁩

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ボストン生活(1997年春〜2000年春)

 私は北米では会社部門の後方支援に回りアメリカ人VPのお膝元で実践的な経営哲学、理念を学ぶ機会に恵まれた。計画を担当して予算など数字作りに従事、部門全体構想を練りながら現業を切り盛りした。そしてニューイングランド地方の美しい自然の中、ボストンの人達と濃密な心の交流をすることが出来た。
 ボストンは日本から遠く時差も大きいことがあって残念ながら日本人駐在員、特に企業派遣者は少なかった。そのせいで逆に言えばアメリカに適正のある(特に選ばれた)人が来ていたようには思う。日本から遠く離れきわめて白人社会。冬が厳しくて大変長いこの土地では精神的に安定してやっていくにはそれなりの人でないと務まらないことは事実だ。
 冬の朝。まずやることはエンジンを暖気運転。その間に車のフロントガラスの霜をスクレイパーでかいて出勤の準備をする。真っ暗なうちに一人出発する。場合によってはドライブウエイ(家の車庫から道路に出るまでの短い敷地内の舗装部分)も雪かきしたりする必要がある。あまりに寒いのでコートを着たままの運転だ。手袋をしたままということも多い。両側を森に囲まれて路面が凍結防止剤で白っぽくなった高速道路をただひた走る。
 会社の駐車場に着き一人車から降りて事務所に向かう。この間、誰にも会わない。米国のキュービクルスタイルの事務所は広い。一人一人を区切っているので屋根のない塀で囲われた個室のようになっている。だから他の社員が出社しているのかさえ遠くからではまったく分からない。時には一日中、顔を合わせないことも有り得る。そして夕方陽の落ちるのは早くて午後3時くらいには暗くなり始める。寒くて長いニューイングランドの夜が訪れる。日本との時差が13時間。ということは昼と夜がほとんどさかさまなので西海岸のように夕方になって日本との電話対応に追われるということは全くない。連絡はたいていの場合Eメールである。電話があるとしたらよほどの重大問題(例えば明日緊急で取引先へ出張に行ってくれないか)など、または悪い知らせ(親の急病とか)と相場は決まっている。そのせいで今でも夜に電話が鳴ると条件反射でビクッとなる嫌な習性がついてしまった。親の不幸に遭遇した人なら分かるだろうが夜中に電話が鳴ると身構えてしまうのだ。こんなことで私は電話嫌いになってしまった。
 夜もまた一人、事務所を出て駐車場に向かう。コートを着たまま乗り込んでひたすら30分、暗いインターステイトハイウエイ−95号線を西へと向かう。もちろん冬季にはスノードライブということも多い。このような土地柄であるため、ゴルフ場も6月から9月前半くらいまでしかオープンしていない。冬はやることが少なくどうしても家にこもりがちになる。否応なしにストレスが溜まりフラストレートすることが多くなってくる。気をつけていてもストレスのせいで時にはメールできついことを書いたりもしてしまうのだ。
遠い日本にいる人々には想像もつかない独特の孤高の世界。このように冬は厳しく長くて一年の半分を占める。
 
 しかし春になり5月ころに新緑の芽が吹き始めると、一面まぶしいばかりの緑に囲まれる。明らかに高さが違う初夏の陽射しが木立に映えてとても美しい。 光り輝くばかりである。

全米でももっと優秀といわれるハーバード大学マサチューセッツ工科大学(MIT)があるケンブリッジ( Cambridge )の町とボストンダウンタウンを隔てるチャールズリバー周辺は緑が多く公園や遊歩道があって冬のあいだ家にこもっていたひとびとが一気に戸外に出てくる。ジョギング、インラインスケート、自転車、散歩など思い思いのスタイルで短い夏を誰もが思いっきりエンジョイする。春は新芽で季節を夏へとつないでごく短く終わる。

 夏は6月から7月の2ヶ月ほどでたいへん短いがボストンは観光の街でもあるので特に活気づく。8月の後半には日本で言う秋風が吹き出して急速に涼しくなる。そして秋には特に9〜10月の半ばにかけて美しい「紅葉」の時期がやってくる。
 美しいニューイングランド地方の四季の移り変わりの中で、春夏秋冬それなりの生活スタイルでメリハリをつけたライフスタイルがボストン・ニューイングランドの大きな魅力だと言える。少なくとも私はそこがトータルで好きなのだから。良く西海岸の人たちからは何気なしに東と西ではどちらが良いかときかれるのが挨拶代わりになっている。聞かれて答えるのは「それぞれ良いところがありますよ」だ。このように一口に言い表せないところがニューイングランド地方の魅力なのだ。