ときおり人生ジャーナル by あきしお ⁦‪@accurasal‬⁩

内外について個人の思いを綴る雑記帳です|andy-e49er | Twitter@Accurasal

パッキパキ北京 ( 綿矢りさ )

パッキパキ北京 ( 綿矢りさ ) 読んだ。

小説なんだけれどごく一部最近の世情について主人公の独白の形で批判的意見が吐露される。

#綿矢りさ 氏の生の心情発信か。投影されフィクションに化体した世情批判なんだろうかと、私はひとり静かに判じながら読んだ。

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主人公に語らせつつ、今の日本の荒みがちなネット社会と諸々を鋭くえぐっている。フィクションの世界に置いたバーチャルな “仮想女勝負師” に語らせる。#パッキパキ北京
心を打つもの、何か変化を創り出してくれる、そういうことの本質はおんなじだ。

創作で作り上げたその世界観は独特。

味わい尽くしてやる、この都市のギラつきのすべてを。コロナ禍の北京で単身赴任中の夫から、一緒に暮らそうと乞われた菖蒲(アヤメ)。愛犬ペイペイを携えしぶしぶ中国に渡るが、「人生エンジョイ勢」を極める菖蒲、タダじゃ絶対に転ばない。

... Google Books から

 先日読後の感想をいかにもそれらしく(苦笑) 書き連ねた「幕末史」と同時に予約到着してたこの本あらかた五分の四まで読み進んでいる。

 著者・綿矢りさ氏のことは名前と芥川賞作家で「蹴りたい背中」を書いた人だ、ということだけしか知らない。だがこれを選んだ理由はそこしかない。そもそも私のジャンルではないし

✳️ 本書は中国の国内での徹底したコロナ禍統制が落ち着いてきた時期に、配偶者に呼ばれ後から遅れて北京に赴任してきた人妻の現地生活を主人公の菖蒲(あやめ)の視点で描き出した中編小説…なのかなぁ?と…なんとも不思議に思える内容である。それはなぜかというと、読んでいるとご本人の北京生活の実話なのではないかとしか思えないからなのであった。

 その中で、主人公 (菖蒲) の笑えるほど "豪胆な" 性格の現れてる箇所が多くを占める。既に何箇所もたくさんそれを読んでいる。だが後半になってこの辺また面白くて笑える❗️と思ったので読書ついで、返却前に抜粋引用しておく。

▶︎場面は、赴任後かなり日数が経ってからマンションの他の日本人の夫婦食事会で、初見の相手日本人の婦人から、印象深い訪問先のことを尋ねられての菖蒲なりの答え (ネタバレ避けて引用はしません) から始まる。

菖蒲「私は初対面の人には感心されたいタイプなの。例えハッタリでも聞いている相手が私に一目置いたら、それで満足なの」

旦那「でも全部ウソじゃないか」

菖蒲「ウソでもいいの、その場の雰囲気が一番大事なの。ウソだらけでもその場をしのげたら、上出来。というかウソですら無いよ、話してるときは本当に行ってる気分になるんだからね。私にとっては知性とはムカつく相手をどれくらい早く言い負かせるかだし、教養とは狡い男に騙されず自分の好きなように生きるスキルのこと」

精神勝利法』という話が夫婦の会話から産まれ出る。北京に赴任し働くエリート旦那が、いかにものエリート然とした知力高い知識と思考で、彼の後妻にあたる妻・菖蒲の行動の仕方とものすごい対応力や適応力を冷静に分析して話すところ。場面のエピソードから会話する。

中国北京生まれの魯迅の著した有名な書の、

阿Q正伝で書いた、精神勝利法みたいな考え方だね。君は阿Qの精神勝利法を自然に体得してるみたいだ。めずらしいメンタリティだね。君は魯迅を読んだことはある?」

と菖蒲の主義主張を評価するくだり。

一方の菖蒲はと言えば、阿Qを知らない。著者の魯迅を日本の有名な陶芸家の魯山人と混同した発言で返答する会話の件(くだり)が知的な笑いを誘う。因みにこの後別場面でファッションとしてのグワシ楳図かずお先生の赤白の太ボーダートップスのくだりもなかなか読ませる。

「読んだことないけど、名前は知ってる。壺とか皿も作ってる有名な人だよね」

そんな "計算された書きぶり" には感心し感服するしか無い。🌾ネタバレ失礼!この120ページ辺りがこの小説の真骨頂なのだろう。旦那が魯迅についてアレコレと補足説明するとこう来る

「めっちゃエコじゃん。阿Q天才じゃね?」

今風のギャル的な口ぶりは意図的だろう。

夫婦は20の歳の差。そこから来る割と予想通りの会話の積み重ねを含め、この場面での会話のすれ違い度と落差の激しさ。楽しくて笑えた。

いったいこの一冊はなんだろう。

中国のコロナ禍での異常なまでの管理統制体制をさらりと描き出しながら、夫婦の対応や行動力の大きな差異、そして考え方の落差を笑い飛ばすかのようなフィクション。だけれどもノンフィクション的な、何かの意図が隠れているのか。いや何もなくそのままの小説なのか。菖蒲的な表現をすればまさに「わからん」「知らない」不思議な小説だ。私小説なのか?

  • 知性とはムカつく相手をどれくらい早く言い負かせるかだし、
  • 教養とは狡い男に騙されず自分の好きなように生きるスキルのこと

ともあれ、読み終わっての感想で〆ようか。

エンターテイメント的な要素もあり、現代的な日中の文化的違いを実生活や着任中の日本人夫婦の軽妙な会話、特にギャル的人妻の主人公に縦横無尽に語らせた軽妙なものがたりなのかなぁ…という😮‍💨感慨です。

本の一部で出てくるが、

「差不多!」( チヤーブドウオ : 大差ない) と菖蒲…"勝負" と読み替えた方がよさげな勝ち気で常に自分本位の性格…が気に入ったとするある日のタクシーの運ちゃんの客との会話の返答セリフを思い出す。そこでこの私も、大差ない、どうでもよろし、と大まかに締めくくっておくとするか。笑い🤣

 

はて。この後、番外編として私個人 前の会社での自分に対する中国赴任の可能性があった特別なハナシを書こうと思ったが、読み進めて最終場面に来たら、夫婦間にある事件が起きた。もう少しそのまま読み進めてみることにする。

🌾綿矢りさ - Wikipediaから https://ja.wikipedia.org/wiki/%25E7%25B6%25BF%25E7%259F%25A2%25E3%2582%258A%25E3%2581%2595

ところでウィキペディアで著者を調べたら自分とある共通ポイントが見つかって、なんだか奇遇だなァと感じ入っている。アクエリアス

この人早稲田大学教育学部(国文学科)卒業なのか。

▼ものがたりの最終局面では日本に帰って『銀ホス』に戻るかとか、パパ活とか、時代背景を斜に構えていかにもギャルっぽい、アラフォー気味なあやめ (菖蒲) の、生きることにかけては人生の勝負師たる、割り切った一面が湧き上がってきて。ホステス時代からのいつも見栄を張り合う友人もどきの後輩と国際電話するくだりで、このものがたりは終わる。

あ、シャネルもブルガリエルメスも精神勝利法だ。持ってると勝てるから、立地条件が違うだけでマクドナルドぐらい世界中どこにでも店舗がある珍しくもないシャネルを、店の前で列を作ってまで中に入り、みんな高い金を出して買うんだ。無論シャネルの品質の進化に惹かれて買う人もいるだろう、でも私は違う、全然違う。勝てるから買うんだ。私はシャネルは人の強い部分ではなく弱い部分だと思う。だって弱ってる時ほど欲しくなる。持ってるだけで自尊心が回復するバッグなんて他にあるだろうか。そういう意味では、無人島における法螺貝ぐらい実用的だ。しかしシャネルがないと勝った気になれないなんて、なんて情けないんだろう。夫の話してくれたあの阿Qと言う男は、実在しない自分の息子の優秀さを想像して優越感を抱いていたと言うじゃないか。年々高くなっていくシャネルに何十万も出さなくても、自分の脳で無から有を生み出す、これ以上の錬金術があるだろうか。

「決めた、私のこれからの人生目標」

「なに、教えて」

「シャネルがなくても完全勝利できる女になる」

初出「すばる」2023年6月号

  • "自分の脳で無から有を生み出す" って一種独りよがりかもしれないけれど、意外と精神性の高い、自己満足ならぬ・精神を高めるいい法則かもしれない。
  • あと、後半の後半で、ソーシャルメディア(ネット)での炎上や誹謗中傷での世の中の風潮を斜に構えて、その上を行き喝破する論点めいた のが出てくる。

👉これは著者の生の吐露ではないか。フィクションに化体した世情批判なんだろうなと、判じながら私はそこを読んだ。強い適応力と精神性を持ち合わせる、精神勝利法という稀有な人生哲学をもつかの日本人女性に語らせて。

今の日本の荒みがちなネット社会を鋭くえぐっているのだ。フィクションの世界に置いた、仮想の女勝負師の言葉で、だ。

古くても心に訴えるもの。そして新しいものも。いつの時代も心を打つもの、何か変化を創り出してくれること。本質はおんなじだ。

👇読書の途中👇 2024/5/13 (月) 雨の午後に

1986年『キネマの天地』山田洋次監督。
中井貴一有森也実松坂慶子倍賞千恵子、すまけい、ほか。映画作り厳しく、まさに古典超名作。舞台は松竹蒲田製作所。新人女優田中小春の父親役に渥美清。ほか鬼籍に入った名役者数多くが出る味わい深い作品。目が離せない。出るもの全て昭和ノスタルジー(私自身のX投稿から)

✳️ 大正から昭和へと移り変わった初期、いわゆる戦中と戦後間もなくの『エネルギー溢れる復興の時代の日本』の世相。

✴️ かたや、21世紀の20年が過ぎ去った令和の新時代。Z世代とか、団塊の世代(が老人介護の時期に差し掛かる) 少子高齢化したソーシャルメディアが幅を利かせ、生成AIだの経済安全保障だの、フレンドリーショアリング・グローバリゼーションが終焉したスローバリゼーションなど、バズる横文字の造語ばやりの今。

👉 両方みてどちらがよりしあわせだろうか。

"活動写真" と呼んでいたキネマ(cinema)の天地の頃が人間らしく、外見ではない美しい心根の日本情緒にあふるる豊かな心象風景に思えた。