🐌. 六月。変わらず日々忙しい中、なんとか少しずつでも『手嶋龍一』著作シリーズを読み続け、今回4冊目。作品はフィクション。一般小説の雰囲気で静かな幕を開ける。読後感想⤵️
プロローグ リヴィウ… 2006年初夏
我こそは古都の王者なり
で始まり、
- 根室・旅館「照月」2008年晩秋、と続き、
- ロンドン・パブ「ラム」2009年初夏、へと変転していく…ここまでは序曲で平板だ。
- 『バルチック・エクスチェンジ』を拠点とする海運関係者、など、船の🚢話。これがこの書の軸となる、解明すべき安全保障面の調査対象として登場、神戸の海運ビジネス界の中で、いっそうクローズアップされていく。
第3章くらいまでは、実は割と平穏で、読み物としてはかなり退屈なまま続くが、第六
第七へと後半で、インテリジェンス全開モードへ盛り上がる。
第1章は『ジェームズ山』👉なんだろう?
第2章、蜘蛛の巣
第3章、千三ツ屋永辰 👉企業の盛衰◎!
第4章、偽装開始
第5章、彷徨える空母 👉「遼寧」🇺🇦登場
第6章、守護聖人
第7章、「鍛冶屋」作戦
第8章、諜報界の仮面劇
エピローグ
✴️ 中国、香港、米国、日本に英国の各地・なかんずくウクライナ🇺🇦のキエフやらロンドン。今回は特に神戸の公安調査庁とそのインテリジェンス人員たちが主役の神戸を舞台とするドラマ仕立て。加えて、私が感服したのは、バイプレーヤーそれぞれの個性とそのバックにある教養や文化の土台。これまさに著者自身の博識からくるに違いない。
✳️ 日本の着物👘、伝統芸能とその芸術工芸品や骨董。文化として深みのある茶の湯。暗喩や隠された連絡用メッセージとして往復連絡に使われる和歌・俳句がもたらされて知的会話に溢れる。ストーリー随所に著者の博識さ・博覧強記のサマが現れる。
読み手の「学び」になるところが憎い。
- ハリウッド型アクション映画スパイもの、特に殺し合い無縁。文化が高く香る
表の外交に対する (真の意味で) 裏の、目立たない "インテリジェンス"、それもヒューミント行動がハイソ会話で粛々展開されていく。目立たなく印象に残らない主人公の特徴は、同僚にして作戦の相方ミス.ロレンス(愛称)との対比でユーモラスに描写されていく。2人の会話はウィットに富み、楽しめる。インテリジェンス活動の具体的行動が随所に描かれる。例えば、調査対象 "丸対" を徒歩や車で尾行するteamの動きの場面。ここでは、映画 mission impossible 的なシーン🎬にもなぞらえられ、それなりに一級のサスペンスとスリルのある所になっている。
こうして多種類、多方面に渡る諜報活動の静かで地味な、 "ヒューミント" の世界がリアルに表出される。「人対人の調査」の手の内をこんな風にあからさまにして良いのだろうか?と内心で心配にもなる。ターゲットの表の生活に隠れた密やかな活動を、推測し、仮説を立て、突き詰めて調べ上げていく。そのため辿っていく伝手を通じた紹介の手法や各場面会話のマッチングなどハイソサエティ空気感に興味は尽きない。
(前略) 中学2年の時、インターネットで「フォトグラフィックメモリー」という言葉を見つけた。映像記憶と呼ばれる特異な能力をいい、三島由紀夫やウォーレン・バフェットもそんな記憶力の持ち主だったらしい。
幼少期には誰もが持っているのだが、通常、思春期までには失われてしまうという。洞窟で暮らしていた太古の人類はみな周辺の光景を画像として記憶に刻んでいた。だが、複雑な言語を操るようになるにつれ、原初の能力は次第に失われていった。
『鳴かずのカッコウ』手嶋龍一著(小学館)
第1章 ジェームズ山 P.30 から一部分を抜粋・引用。2021/3/2 初版第一刷発行
◉ウクライナ🇺🇦で造船された民間船が、中国に🇨🇳引き取られ、あの中国の大型空母 "遼寧" と変貌した事実を元にしているだろうか?
👉起きたことは、その実、この一冊に書かれている経緯として、密かに把握されている事実によるものなのではないか?つまりこの部分は公には証明されないが実話ではないのか?と思われるストーリーで構成されて出てくる。この船の実態こそがこの書のモチーフ、動機付け一端であろう。一連の流れの中で、次第に調査が進み、中国とウクライナの隠れた軍事的つながりが表に出てくる。決してそこはフォーカスされないが、そんな展開にされている。この話、読み進むにつれてそこに繋がるのか!と得心もする。妙味ある仕立てと全体の流れ、個々細部の動きの描写。実に上手いストーリーテリングにつなげて作り込まれた作品になっている。
( 読み終わって…) 目立たず、人の記憶に残らない性格と外見特徴のジミーこと梶壮太。改め、彼の出身地松江。そこでの祖母の骨董屋を継いで養子となる最終章。そこで苗字を母方の姓で、カバー潜入時の野津 翔太へ変える転身。そして『スリーパー』となる。公の身分は松江の一骨董屋、民間人・商売人に身をやつす。公安調査庁の元職員にして、英国MI6や米国CIAとも絡んでいくであろう情報調査の役割は続く。
- Miss. ロレンスが愛称の帰国子女。語学に堪能。政府表彰を受けるほど実に有能で、美形の独身女子との掛け合い、楽しい🎵
- 主人公の周囲を固める上司や刑事OBなど。出入りする居酒屋。それら舞台回しも海外のスパイ小説とはまた一風異なって、日本風であり、またそこが優れた妙味。
小説としてまとまりがいい。いつの日にか日本舞台のハリウッド映画とでもなれば、その会話パートは英語のさとなり、原作を脚本化するにも日本文化の香りが溢れかなり優れていると思える。ただ暗喩の詩をどう英語化するか。そんなところをシロウトながら先々の展開までを感じさせる、なかなかなの逸品だと思う。
概要
インテリジェンス後進国ニッポンに突如降臨。公安調査庁は、警察や防衛省の情報機関と比べて、ヒトもカネも乏しく、武器すら持たない。そんな最小で最弱の組織に入庁してしまったマンガオタク青年の梶壮太は、戸惑いながらもインテリジェンスの世界に誘われていく。 ... Google Booksから
『託卵』(たくらん)▶︎「カッコウの技」
「 (前略) 託卵といってな、カッコウは他の鳥の巣に卵をそっと産みつけて孵化させる。そんな不思議な習性を持っとる。自分が産んだ卵をホオジロやモズの巣にこっそりと忍ばせて育てさせるんや。そいつらを騙すためには卵の色や斑紋までそっくりに産みつける。数合わせのために、相手の卵を地面に叩き落とすことまでする」…つまりは、偽装の技。地味で静かに。
◎ ところで私個人のことだが、比較や評価には値しないレベルだけれど、なんとなく「私も映像記憶がある」感覚を自覚している。それっておそらく数ヶ月前まで、一年・二年の長きにわたり家族の昔の8mmVideoテープの編集・整理を行った残像のためだろうか。そうして映像を切り取ったいくつものリアルな風景や "場面" が頭の私設 Working memory に残っている。
- それらの一場面が脈絡も関連性もなく突如として頭に浮かぶ。頻繁に起きる。
- 例えば朝の歯磨きのとき。家で何か家事的な単純作業をしている途中で、などだ。
文字やデータなど鮮明かつ正確なものは出てこないが、"場面" の雰囲気は自ら撮影機のファインダー越しにレンズの先を見ていた。その鮮やかな感覚としての映像記憶が脳内に刻まれているのかも知れない。
- スチール写真のぼやかした感じで
- 脳の記憶の場所🧠海馬?どこだったか
忙しくてなかなか読み続けられず、返却期限を延長。なんとか次の予約の一冊と重なるところで今日(6/22) 読み終えた。
次なる五冊目▶︎『スギハラ・サバイバル』( ウルトラ・ダラー次回作) が届いた旨、メール通知が来ている。この先『手嶋龍一著作シリーズ』を読み続け、"どうなるかみてみよう"。