ときおり人生ジャーナル by あきしお ⁦‪@accurasal‬⁩

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小説📖『ほんのささやかなこと』…そして 〔読後感想〕

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著者 : Claire Keegan  訳者 : 鴻巣友季子

早川書房

中編小説である。hardcover、B5版137 ページ

✳️ 読み進むうちに、これはサスペンスなのかと思いつつも、文体と描写は丁寧かつ優しさを帯びて、淡々と先へ先へとものがたりは進む。

実は、キリスト教、人間の尊厳、正しい行いを描く、ひとりの平凡な40才代アイルランド人男性の女性や子どもに目配りをする。彼の心の動きを丁寧に描く、優れた作品だ、と気づく。 

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読者のみなさんへ、とされる、表裏2ページに、『マグダレン洗濯所』という🇮🇪アイルランドで最後に1996年閉鎖された場所で行われていたことを背景とする。主人公・ウィリアム (ビル) ・ファーロングの心の動きのものがたり。

つい30年弱前まで実在した所業の片鱗を、穏やかながら比喩的描写を交え、描き切った。

訳者あとがき、ここで以下の通り引用しておく

「ほんのささやかなこと」の原作は120ページほどのノヴェラ(中篇)だが、2022年にはジョージ・オーウェルの「政治的著作を芸術に昇華させる」という志に基づくイギリスのオーウェル政治小説賞を受賞し、ブッカー賞の最終候補となって、「ブッカー賞候補史上最も小さな本の一つ」として愛されている。

(中略) ビルは物質主義に流されず、人の心に寄り添ある人間である。日々まじめに働いて糧を得ている彼だが、家族とゆっくり過ごせるはずのこの時季に、ある社会の闇に気づいてしまう。

 そう、これはアイルランドに1996年まで実在した教会運営の母子収容施設と「マグダレン洗濯所」をモデルにしているのだ。

 最終的に、この町の不正と犠牲を見てみぬふりをしたまま、キリスト者として生きていけないとビルは結論する。自らの良心に従わず、沈黙を通して声を上げずにいるなら、個人の幸福は成り立たないと考えたのだ。(中略)…(別段落の紹介に移る)

 さらに、本作「ほんのささやかなこと」は2022年のラスボーンズ・フォリオ賞の最終候補に選ばれ、前述のとおり、オーウェル政治小説賞を受賞し、ブッカー賞の最終候補に選出された。現在、「オッペンハイマー」でアカデミー賞最優秀男優賞を受賞したキリアン・マーフィー主演で映画制作が進んでおり、2025年に公開予定である。

鴻巣友季子←訳者

ちなみに、この訳者さんは文芸評論家だとのことで、こちらに登場している⤵️ リンク🔗はこちら▶︎ “ノーベル文学賞” 韓国人著者 〔読後感想〕 - ときおり人生ジャーナル by あきしお ⁦‪@accurasal‬⁩

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キリスト教 (それがCatholicかProtestantかはここでは大きな差としては表現されないが) の聖なるクリスマスという🎄一見外見的には幸せで美しいもの。その華やかな、しかし、貧しいものたちには過酷すぎるウェクスフォード県ニューロスの町。極寒の中、町を流れる黒く沈んだ川やその橋の描写や古くから伝わる噂のような言い伝え。

西欧社会の一種温かな家の中と、逆に暗く陰鬱な隠された場所との対比。

一地方の小さな保守的な町のそれらの情景と説明が眼前にもたらされていく。次第に詳らかにされていく。しかし、決してサスペンスもののような暴かれかたとはちがう。ごく普通の庶民たちの生活。その一日の平凡な行いの中で次第に、浮き彫りにされていく。

そしてビルの行動の動きとともに、彼の心の迷いや葛藤が描かれていく。こちらも先へ先へと、悩みながらも淡々と進む。エンディングは決して詳述されないが、読み手の心の中に置かれてあるべき推測をさせる形で終わるのだ。

本質にあること。それは男と女の差は関係のない、一人ひとりの人間の尊厳。そして社会の誤った行いを見ぬふりをしない。自らの行動により、弱く自力でできない相手に手を差し伸べて「救い出す」。

しかしそこは、アメリカ映画にありがちな陳腐なヒーローもの的なものとは対極にある。

🙌 救いの手を差し伸べる、このファーロングこそは石炭、泥炭や薪を売り歩く店主で数人の使用人の雇い主である。父が誰なのか不明な私生児として大人になり、今ではそれなりの家庭を築き上げた努力の者。日々肉体労働で爪の中にある黒い汚れを石鹸を泡立たせて洗いながす、そんなごく普通の実直な男なのだ。しかしその救いの手は正しくて、温かなはずだ。そうしてごく静かに、目立たずに、彼の心は進み、そして最後には正しい行いへと自ら行き着く。

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ひとりの平凡な燃料店を営む事業主にして、五人の女児を持つアイルランド人の父は女性や子どもを分け隔てなく見つめている。心の動きを丁寧に映像と行動で描き切るとしたら、受賞に近しいよい作品になるものと大いに期待する。

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音楽 🎼🎵 聴いてみよう…Vivaldi 

https://www.facebook.com/share/r/17YT1j67rc/?mibextid=wwXIfr   こちらは息抜き

ささやかだが、ひとりの普通の庶民の勇気と義憤に駆られた行動の静かな物語。一方こちらは、Sacramento出身カリフォルニア州アメリカ人の友人3名、トリオによる高速列車内でテロリストに対決して、大量虐殺を未然に防いだ「行動」の実話。クリント・イーストウッド監督が、実際の3人を出演させて作り上げた作品。必見だ。

映画『15時17分、パリ行き
特集: イーストウッド監督の到達点は“ごく普通の人々に捧げた《極限の実話》…
15時17分、パリ行き 特集: イーストウッド監督の到達点は“ごく普通の人々に捧げた《極限の実話》”。各有識者が語る、今こそ見るべきその意味とは? - 映画.com

あと何作、彼の作品を見られるのか? 87歳にして、今なお最前線で傑作を撮り続けていること自体が、感謝するべき驚きだ。これが最終作かもしれない……私たちはその思いを持ちながら、クリント・イーストウッド監督の到達点とも言うべき本作をむかえる──「アメリカン・スナイパー」「ハドソン川の奇跡」の名匠の最新作「15時17分、パリ行き」が、3月1日より全国公開。2015年、アムステルダム発パリ行きの特急列車内で起こった無差別テロ事件の真実が、事件の当事者3人を主演に据える驚きの手法、同監督史上最短の94分で今、描き出される。(映画.com から)2018年